高血圧の基準と診断

なぜ高血圧の「正しい診断」が重要か

高血圧は自覚症状がほとんどなく、知らないうちに進行することから「サイレントキラー」と呼ばれています。正確な診断を受けずに放置すると、心臓病や脳卒中、腎不全といった重大な病気につながるリスクがあります。だからこそ「今の血圧は正常なのか」「本当に高血圧なのか」を正しく知ることが、将来の健康を守る第一歩となります。

血圧の測り方と基準

診察室血圧と家庭血圧の違い

血圧の診断には「診察室血圧」と「家庭血圧」の2種類があります。

• 診察室血圧：医療機関で測定する血圧。緊張によって高く出ることがある。
• 家庭血圧：自宅でリラックスした状態で測る血圧。日常の実態に近く、診断において非常に重要です。

日本高血圧学会では、家庭血圧の方が診断や治療効果の判定に有用であるとしています。

高血圧の診断基準（日本高血圧学会ガイドライン）

分類	診察室血圧（mmHg）		家庭血圧（mmHg）
	収縮期血圧	拡張期血圧	収縮期血圧	拡張期血圧
正常血圧	＜120	かつ ＜80	＜115	かつ ＜75
正常高値血圧	120-129	かつ ＜80	125-134	かつ ＜75
高値血圧	130-139	かつ/または 80-89	125-134	かつ/または 75-84
高血圧	≧140	かつ/または ≧90	≧135	かつ/または ≧85

家庭血圧では「135/85 mmHg以上」で高血圧と診断されます。これは、自宅では緊張が少ないため、病院よりもやや低い基準が設定されているためです。

欧米との違い

アメリカ心臓協会（AHA）のガイドラインでは「130/80 mmHg以上」を高血圧と定義しています。これにより、より早期の介入が推奨される傾向にあります。今後、日本でも同様の動きが出る可能性もあり、より厳密な血圧管理が求められる時代になっています。

白衣高血圧と仮面高血圧

白衣高血圧とは？

病院で測ると血圧が高くなるが、自宅では正常という状態です。緊張や不安によって一時的に血圧が上がっているだけの可能性があります。白衣高血圧は放置しても問題ないと思われがちですが、実際には将来的に本当の高血圧に進展するリスクが高く、注意が必要です。

仮面高血圧とは？

診察室では正常でも、自宅や職場などでは血圧が高くなる状態です。これは本人も医師も見逃しやすく、治療が遅れる原因になります。仮面高血圧の人は、心臓病や脳卒中の発症リスクが通常の高血圧以上ともいわれています。

どう診断するか？

これらを見極めるには「家庭血圧の記録」が非常に重要です。朝・夜の血圧を定期的に測ることで、血圧の実態を把握できます。また、24時間血圧測定（ABPM）を用いることで、1日の血圧変動を詳細に把握することもあります。

血圧の正しい測り方

• 測定は朝起きて1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前に行う
• 夜は寝る前に測定
• 1回でなく2回測定し、平均値を記録
• 座った状態で1〜2分安静にした後、腕を心臓の高さにして測定

よくある失敗とその対策

• 袖を強引にまくって腕を圧迫してしまう → なるべく袖のない状態で測定しましょう
• 測定前にコーヒーやタバコを摂取 → 血圧が上がってしまうため避けましょう
• 朝の家事など終わらせてすぐ測定する→動いた直後は高値に出るため気をつけましょう

アプリでの記録（Welbyマイカルテ）

当院では、スマートフォンアプリ「Welbyマイカルテ」を活用した血圧管理を推奨しています。日々の測定値を簡単に記録・グラフ化でき、医師との情報共有にも非常に便利です。記録したデータはサーバーに蓄積され、診察時に医師はPCのブラウザで患者さんが実際に測定された血圧の表やグラフを見ながら、よりスムーズな評価・診療を行うことが可能です。

Welbyマイカルテ公式サイト

当院での診断体制

当院では、正確な診断とリスク評価のために以下の取り組みを行っています：

• 電子血圧計を用いた正確な測定
• 家庭血圧の記録アプリや血圧手帳の活用指導
• 血管の硬さや詰まり具合を評価する検査（CAVI、ABI）を実施
• 栄養士による食事・減塩指導

CAVI・ABIとは？

• CAVI（心臓足首血管指数）：動脈の硬さを測定する指標で、動脈硬化の進行度を数値で可視化します。
• ABI（足関節上腕血圧比）：足の血管が詰まっていないかを調べる検査で、末梢動脈疾患（PAD）のスクリーニングに有効です。

高血圧は動脈硬化を進行させる主因の一つです。当院ではこれらの数値を測定する脈波検査も併せて行うことで、単なる「数字の管理」だけでなく、「血管の健康状態」まで含めた総合的な診断とアドバイスを行っています。

まとめ

高血圧の診断は、単に血圧の数字を見るだけではなく、家庭での測定や体の状態を総合的に評価することが大切です。白衣高血圧や仮面高血圧といった特殊なタイプも見逃さず、将来のリスクを防ぐために、今からできることを始めましょう。

「血圧が高いかもしれない」と感じたら、それは体がくれた大切なサインかもしれません。放置せず、正しい診断と管理を受けることが、将来の自分を守る最も確かな方法です。

ご自身の血圧が気になる方は、ぜひ一度当院までご相談ください。